生きてると疲れる

東京都、26歳、会社員。これまでと、このさき。

レイコさんとばあちゃんと僕

今週のお題「マイベスト家電」


レイコさんは賢い。僕が好きなものをちゃんと知っていて、僕が気に入りそうなものがあるととっておいてくれる。僕が忘れてたり知らなかったりしたものでも、ちゃんととっておいてくれる。でも、僕がレイコさんに構わないで何日も過ごすと、レイコさんはとっておいてくれるのをやめてしまう。
レイコさんには容量があるから。


レイコさんは、僕の家のブルーレイレコーダーである。
僕が上京するときに、父が買ってくれた。



“大学生の一人暮らしにテレビは必要か”というのは、“異性間の友情は成立するか”とか“ニワトリと卵はどっちが先か”とか“バナナはおやつに入りますか”とかと同様に、永遠のテーマである。当然、僕と両親もその問題にぶちあたったが、幸いしたのは両親ともオタクだったこと。僕が、テレビとレコーダーはオタク必需品だ!できるだけ大きいテレビと、できるだけちゃんとしたレコーダーが欲しい!と主張したところ、両親は理解を示してくれた。そして父が買ってくれたのが、一人暮らしの狭い部屋には不釣り合いな大きいテレビと、レイコさんである。

“レイコさん”という名前は、ブルーレイレコーダーであることから取った安直なものだ。しかし、他の家電には名前をつけなかったのにレイコさんにだけは名前だけでなく敬称までつけていることから、僕にとってレイコさんがいかに特別なものかわかっていただけると思う。
なんか、実家を出て、これから一人前のオタクになるぞ!というときに、これからのオタクライフを支えてくれるレイコさんの存在がすごくうれしかったのだ。


レイコさんには便利な機能があった。僕が「特撮番組は基本的に録っといて」って設定したら、特撮は全部録るようになった。賢いなあと感心して、好きなアイドルの名前とか、セクシャリティを表す言葉とか、僕はレイコさんにいろいろ教えた。レイコさんは、僕の興味ありそうな番組をほとんどみんな録ってくれるようになった。

でも、しばらくするとレイコさんの優秀さに僕がついていけなくなってしまった。



冬季うつが僕を襲ったのである。

抑うつ状態になると、とてもつらい感じになって、気力も体力も失われてしまう。映像作品を見るだけの簡単なオタ活でさえも、つらくてできなくなってしまう。

僕は、生活が昼夜逆転してしまったり、何も食べないで寝まくったり、全然寝ないで食べまくったり、した。
抑うつ状態は良くなったり悪くなったりを繰り返した。ひどかったときは完全に引きこもり状態になり、ごはんもたべないので、友達に単位と身体の心配をされた。

でも、比較的元気なときには、昼夜逆転してしまった生活はそれなりにたのしいものでもあった。僕は日が暮れないとやる気がでないタイプの人間なので、そっちのほうがむいてるのかもしれなかった。普段はなにもする気がしないのに、夜中に妙にやる気が出てきて、うつのせいで溜め込んでしまった洗濯物を一気に片付けたりした。

洗濯機に衣類を放り込んでから、洗い終わるのを待つまでの時間が、レイコさんが録り溜めていた特撮番組をやっつけるのにちょうどいいかなって思ったのが、僕にひさしぶりにテレビとレコーダーを起動させるきっかけとなった。

僕が何もしないでぐだぐだしていたあいだ、レイコさんはひたすら“特撮”を録り続けていてくれていた。容量オーバーになっても、一生懸命“特撮”を録り続けようとしていた痕跡があった。レイコさんは、自分で判断して録ることにしたものよりも、僕のリクエストを重視して、自分が録ったものを消してまでスーパーヒーロータイムを録っていてくれていたのだ。そして、“特撮”枠で録画されたもののなかには“特撮”じゃないものもいくらかまぎれこんでいるということもわかった。

過去に特撮ヒーローを演じた俳優がゲストのトーク番組なんかも録られていたし、たまになんでも鑑定団が録られているのは特撮関係の貴重なコレクションが登場するからであった。ここまではまあわかるとして、松井秀喜の情報も録られていたのは解せなかった。きっと番組説明のなかに「ゴジラ」の三文字を見つけたがための行為だろう。でも、松井秀喜は特撮じゃない。

レイコさんには“特撮”がわからないのである。



なんか、ばあちゃんみたいだな、と僕は思った。

ばあちゃんちにあそびに行くと、必ず晩ごはんにマグロの赤身と釜揚げしらすが出てくる。これは、僕が子供の頃にマグロの赤身と釜揚げしらすが大好きだったのを、ばあちゃんがしっかり覚えているからである。マグロの赤身と釜揚げしらすは今でも好物だからうれしいのだけれど、これが幼い頃は好きだったけど今ではそうでもないものをばあちゃんが“孫の好物”として覚えていたら、と思うとぞっとする。

実際、ばあちゃんが、僕があまいもの好きだと思ってイチゴのショートケーキを買ってきたことがあったが、僕は昔から生クリームとイチゴが苦手なので戸惑った。“あまいもの”なんて雑な言葉で覚えているとそうなるんである。
“怪獣”も、ばあちゃんの脳内の孫の好物リストに載っているらしくて、テレビで怪獣らしきものが出る度に「ほら!お前が好きな怪獣だよ!」なんて言ってくるが、僕が好きな怪獣だったためしがない。


レイコさんは僕が“特撮”好きなのを知っているけれど、レイコさんには“特撮”がわからない。わからないなりに、真面目に、機械的に仕事をした結果があれなのである。レイコさんは機械だから、機械的に仕事をする、それが結果的にはばあちゃんの行動に似ているというのは、かなり面白いことだと思う。ばあちゃんもレイコさんも、僕の好きなものを単語としてしか知らないのだ。


大学生のとき、夜中に酒飲みながらウルトラマンを見るのは最高だった。今でも夜に家で録り溜めた特撮を少しずつ見るのが好きだ。サラリーマンの趣味としてはとても健全だと思う。
レイコさんも、テレ玉で再放送してるウルトラQの存在を僕に教えてくれるなどの活躍を見せている。相変わらずときどき特撮じゃないものも勝手に録るけど、そういうとこも合わせて好きだよ。